ボクの可愛い人



◆◇◆ 4 ◆◇◆

 名陣さんの身体は柔らかかった。ちょっと力を入れ過ぎるとぽきりと折れてしまいそうなほどに…
「アサガミ君、ストレートじゃなかったの?」
 濃厚なキスを交わした後、俺の唇を赤い舌で清めながら聞いてきた。何て答えればイインだろう?女のこの事を嫌いなわけじゃない…でも今まで引きずってきた人は『高橋国彦さん』…れっきとした男性だった、そして今目の前にいる名陣さんだって、キレイだけれど女性には見えない…思わずキスしてしまったけれど、濃厚なキスに応えてしまったけれど、俺はイヤだとちっとも感じなかった。

「バイ…って事になるんじゃない?」
「バイ…?ソレってなんですか???」
 裏道にある名陣さんの行き付けのパスタ屋でお勧めパスタをすすりながら初めて聞く『バイ』と言う言葉に首を傾げた。
「女もオトコもOKって人の事だよ」
「俺…バイですか?」
 名陣さんは頭を抱えた。
「ソレって聞くもんじゃなくて自分で考えるもんだよ」
 ああ、そっか…そうだよな。つい解らない事だらけで名陣さんに聞きっぱなしになっていた。
高校の頃3年以外、確かに雑誌にお世話になっていた。3年になってから…ソコが問題だよなぁ。手に届かないって判っていてもオカズは…………
「わからないです…去年の夏失恋してから、ずっと彼の事が忘れられなくて」
 名陣さんの顔が見られなくなった。半年以上も引きずってる俺。いかにガキで女々しいか…恥ずかしかった。
「ソレだけ真剣で好きだったんでしょ?うらやましいよ…いい恋をしたんだね」
 言うとボクのワイングラスに名陣さんがグラスをあてる。チリンと澄んだ音がした。
「俺ときたら、妻子持ちの嘘つきオトコに振り回されちゃってさぁ」
 最悪のパターンと呟きながらパスタを頬張る。
「付け回されて、コレってばもうストーカーだよねぇ」
 溜息混じりに名陣さんはフォークを置いた。
「名陣さんがキレイだからどうしても欲しくなったんですよ。俺だってそう言う場面になったら、嘘を吐かない自信はありません」
 ふ〜ん…不満気に名陣さんは不満気にグラスのワインを煽った。
「名陣さんに惚れない男はいませんよ」
 俺はグラスから離れた名陣さんの右手を素早く取ると、その甲にゆっくり唇を押しつけた。顔を上げると名陣さんは、真っ赤になっていた。
 俺、何か悪い事でも言っただろうか?店中の視線がこっちに向いているような気がするんだけど…
「尊ちゃんおめでとう!随分若い彼だけど幸せにしてもらえそうじゃん。コレはお祝いね♪」
 言って店長らしき人がドルチェミストの特盛を運んできた。
…………ええっ?!
 名陣さんは店の様子に尚赤くなって「ちっ…違っ!南君は…っ!!」と、慌てて否定しようとしているのだが、かえって店の常連を盛り上げていた。
 そんな名陣さんを見ていると何か胸の奥がほんわりして、本気で年上の彼が可愛いなっと思ってしまった。