「残念だよチャールズ…間に合わなかったよ。ついさっき息を引き取った所だ」
雑然とした病院の廊下で小さな娘達を抱き抱えてアルバートは言った。逝ってしまったキャロラインと同じ瞳、同じブロンドで…
寂しそうに微笑む彼を俺は一生忘れる事は出来ないだろう。アルバートはとても気のつく男で、キャロラインが臥せってからは仕事でなかなか手の回らない俺に変わって、家事・育児・その他家の雑事等を完璧にこなしてくれていた。
俺の勤めている日系企業はただでさえ就労時間が長く出張も多くて、作家をしているアルバートが家にいてくれるのはとても有り難く助かった。幼い娘達も叔父であるアルバートに良く懐いていて、彼のタイプライターの音を子守歌代わりにして育った。
俺達はとても良い関係で過ごしていた。
だが本当にこのままでいいのだろうか?俺と俺の家族はアルバートに甘えすぎているのではないだろうか?
キャロラインが死んで3年、下の娘達も学校に通うようになった今、彼をこのまま束縛し続けていいのか改めて不安になった。子供達が眠った後、家の中は急に静まりかえった。TVもラジオも付けないのでアルバートのタイプの音だけが響く。一定のリズムを刻む軽い機械音が、母の体内にいた頃の記憶を引き出すかのように俺に心地よい安堵を与えてた。
ずっとこうしていたい欲求。アルバートの作ってくれたドリンクのグラスの氷が溶けてカラッと音を立てて崩れた。
「俺は君に甘えすぎだったと思うんだ…」
「…?どうした?」
「子供達の事だって君に任せっぱなしだし…」
「……チャールズ…?」
小気味よいタイプの音が止まり、アルバートが俺の側に歩いてくる気配がする。
「君はもう君自身の道を歩いてもいいと思うんだ」
「ボクは邪魔なのかな?」
「そう言う訳じゃない。君には感謝してる。出来る事ならずっと君にいて欲しい」
アルバートの顔を見る事が出来なかった。自分の組んだ指の関節が不自然に白いのが見える。
「なら…何の問題もないじゃないか」
「アルバート!」
「チャールズ…君の言いたい事がわからない」
聞き分けのない子供みたいにこのまま平行線で終わってしまいそうだ。こんなこと事じゃいけない。
決心してゆっくりとアルバートの顔を見た。彼女と同じ色の縋り付くような悲しげな瞳が俺を刺すように見つめている。
湧き上がる思いは彼女へのモノであり、決してアルバートへ向けられたものではない。
「俺が勘違いで罪を犯してしまわないうちに、君に俺の手の届かない場所に出て行って欲しいんだ」
「?」
「神に背く行為で君を汚したくないんだ」
絞り出した声は自分へのいい訳だった。
俺は強い男でも、清廉潔白な男でもない。妻に先立たれたとは言え、枯れてしまった訳ではない。欲情だってするし、人肌が恋しい時だってある。
アルバートの中に愛しい人の面影を見いだし、眠れない夜を過ごしていたのは一度や二度ではなかった。浅ましい唾棄すべき自分の中の情欲。
「義兄さんは俺を見て欲情したって事?」
「…君はキャロラインに似すぎてるんだ」
アルバートは両手で自分の顔を覆いクスクスと笑った。
「チャールズは一緒に墜ちようとは言ってくれないんだな」
「アルバート?」
「義兄さんが好きだ。キャロルと似ているのは顔形だけじゃなかったみたいだよ」
神様…
コレは罰なのだろうか?それとも…?
アルバートは俺をソファーの上に押し倒して、ゆっくりとゆっくりと口接けた。俺が状況に混乱しきって動けないでいるのを誤解したのか、舌が歯列をかいくぐり中へ進入し俺を追い立てた。
「ま、待てアルバート!」
「?」
「君はその…ゲイなのか?」
俺の上でキャロラインの顔をした男は吹き出した。
「知らなかったのかい?俺はてっきりキャロルに聞いてたんだと思ってた」
一頻り笑った後で、もう一度俺に口接けた。今度は軽く、何度もついばむように。
「ストレートだと思ってたから手を出さなかったんだけど、義兄さんの気持ちを聞いてもう止められないよ」
アルバートの手が俺の股間に伸びてきた。やんわりとソコを布越しに包み込む。
「っっ!」
男に触られているのに嫌悪感は湧かなかった。自分でするよりも数段上の快感が背筋を駆け抜ける。
「だ…ダメだアルバート!!」
状況に流されてはいけない。コレは俺の愛する人ではないんだ。どんなに似ていようとも彼はアルバートで、俺のキャロラインではない。
「今は身代わりでもいいよ。その内に俺は義兄さんを振り向かせてみせる」
アルバートが優しい声で俺の耳元に悪魔のように囁く。
「目をつぶって、キャロルだと思っていいよ」
俺を見透かすように言うと、アルバートの手は下着の中に滑り込みペニスを扱き始めた。
「あ、アルバート…」明日からどんな顔をしてアルバートを見ればいいのだろうか?どんな顔で接すればいいんだろうか?
こんな事になって娘達に、キャロラインに何て言えばいいんだろう?神様…教えてください