白き船
「であるからXは…」
退屈な授業。私、氷室安奈は数学が大嫌い!それで数学の授業中は窓から学校の前を通る車を一時間一杯眺めてるってわけ。
でも、変だなぁ?今日に限って一台の車も通らないや。
死んでしまった様な町並みから黒板に目を向ける。すると先生の横に、何かうずくまっている。白く光っている小さな子供みたい。
「こら氷室!聞いているのか?」
先生がこっちへ来る。あの子が振り向きにっこりと笑った。
ねえ、誰も気が付かないの?ほらポケットから小さな笛を出して…
「どうしたんだ。この頃、ぼんやりして。」
キーンと耳をつんざく様な高い音。あの子が笛を吹いたんだ。
すると近付いてきた先生の足音が消えた。私は黙って凍った様に動かない先生や生徒を見た。
「うふふふ、見つけたわアンナ。」
「え?」
あの子は軽々と生徒の頭の上を跳んで来る。
「随分捜したのよ。」
「え?」
あの子は私の前の大石君の頭の上に座って小首を傾げた。
「忘れちゃったの?アンナ。私よリュージィよ。」
「リュージィ?」
「さあ帰ろう。皆待ってるのよ、ほら。」
小さなリュージィは窓の外を指さした。
「!?」
そこには直径二メートルの白く光り輝く球がぷかぷか浮いている。
「さあ、一緒になろう。そして帰ろう。」
「ど、どういうこと?」
「ここは恐いわ、さあ帰ろう。」
リュージィは両手を差し延べて私に向かって迫って来る。
「嫌よ、近寄らないで。」
リュージィの手があたしに触れるとスッと身体が軽くなった。
そして、あたしの目の前にあたしが居る。
「これで帰れる。やっと帰れるんだ。」
あたしになったリュージィは窓に向かって駆け出し、ガラスを突き破って飛んだ。一瞬、宇宙船のハッチが開き、リュージィは吸い込まれ身体が残った。
凍り付いた時間が緩やかに正常に戻って行く。
「氷室!」
先生の叫び声が教室にこだまする。足元には砕けたガラスの破片が…
あたしは全てを思い出した。宇宙船の故障で十五人の仲間と散り散りにこの地球上に振り落とされ、そして地球人と同化していった全ての事を。
「捜さなくっちゃ身体を…あたしが船に戻る為の身体を…」
あたしはピョンピョンと跳んで、女生徒が授業中に飛び降り自殺をした学校を離れた。
あら?走り去って行くバスの中から、ちかりと白い光がもれてる。仲間だ!
あたしはバスを追った。船に戻る身体を得る為に。
Fin